スマホ周辺機器・アクセサリー

ワイヤレス充電規格の違いを理解する Qiとその周辺技術

スマートフォンをケーブルにつながず置くだけで充電できるワイヤレス充電は、いまや多くの機種で標準的な機能になりました。ただ「Qi」「Qi2」「MagSafe」といった名称が並ぶと、どれが規格でどれが製品名なのか分かりにくいという声もよく聞きます。結論から言うと、Qiは業界団体WPCが策定した無線給電の標準規格であり、Qi2はそこに磁力による位置合わせを標準機能として組み込んだ後継規格にあたります。MagSafeはApple独自の名称ですが、その技術思想がQi2に取り込まれた経緯があります。この記事では、策定の背景から出力の上限、規格ごとの違いを整理したうえで、充電器を選ぶときに確認したい出力・形状・アダプターの組み合わせ、発熱を抑える使い方までまとめます。

Qiとは何か WPCが策定する無線給電の標準規格

Qiは、無線電力伝送技術の標準化を目的とする業界団体Wireless Power Consortium(WPC)が策定した規格です。WPCは家電・半導体・スマートフォンメーカーなど幅広い企業が参加する非営利の標準化団体で、特定の一社が独占する規格ではなく、複数メーカーの製品同士を組み合わせて使えるオープンな標準を目指しています。Qi対応の充電パッドとスマートフォンであれば、原則としてメーカーの組み合わせを気にせず充電できるのは、この相互運用性を前提にした設計思想によるものです。

技術としては、充電パッド側のコイルとスマートフォン内部のコイルを近づけ、電磁誘導によって電力を伝える方式を採用しています。パッド内部のコイルに電流を流すと磁界が発生し、その変化がスマートフォン側のコイルに電流を誘導する仕組みです。ケーブルを差し込む手間がなく、置くだけで充電が始まる手軽さから、多くのメーカーが対応機種を展開してきました。

この方式で充電するには、スマートフォン本体に受電用のコイルが入っていることが前提です。非対応の機種でも、背面に貼る受電シートを端子につないで使えるようにする製品はありますが、端子をふさぐうえに位置ずれも起きやすく、本体が対応している場合と同じようには使えません。同じ電磁誘導の仕組みは、完全ワイヤレスイヤホンの充電ケースや一部のモバイルバッテリーにも使われています。

Qiの歴史 BPP・EPPからQi2、そしてQi2.2へ

初期のQiと出力プロファイルの分化

Qi規格は当初、Baseline Power Profile(BPP)と呼ばれる最大5W出力の仕様として普及しました。その後、より高い出力を求める声に応え、Extended Power Profile(EPP)と呼ばれる最大15W出力の拡張仕様が追加されています。BPP対応機器とEPP対応機器を組み合わせて使うこと自体は可能ですが、その場合はBPPの出力(5W前後)で動作します。この段階のQiは、コイルの位置合わせを利用者の目視と感覚に頼る部分が残っており、置く位置が少しずれるだけで充電が始まらない、あるいは効率が落ちるという課題がありました。

2023年 Qi2の発表とMagSafeの合流

この課題への答えとして、WPCは2023年1月に米ラスベガスで開催されたCESで次世代規格「Qi2」を発表しました。Qi2最大の特徴は、Appleが自社製品向けに展開してきたMagSafeの技術思想を、Apple自身がWPCに提供する形で標準規格に取り込んだことです。この磁力による位置固定の仕組みは、Qi2の中核仕様「Magnetic Power Profile(MPP)」として規定されています。MPPを盛り込んだQi仕様のv2.0は2023年4月にまとまり、最初のQi2対応機器が認証試験を終え、WPCによればQi2は2023年11月に15Wの規格として始まりました。磁石で位置を正確に固定できるようになったことが、従来のQiからの実質的な進化にあたります。

2025年 Qi2.2(Qi2 25W)による出力拡張

WPCはさらに、2025年4月に最大25Wの電力伝送に対応したQi仕様のv2.2(本記事ではQi2.2と表記)を会員企業向けにまとめ、同年7月にはその改訂版v2.2.1を「Qi2 25W」の名称で開始しました。従来のQi2(15W)から最大出力を25Wまで引き上げたもので、WPCは元のQi2より70%近く高い出力と説明しています。磁力式の拡張部分を本記事ではMagnetic Power Profile 2.0(MPP2.0)と呼んでいますが、この名称はWPCの公開資料では確認できませんでした。WPCの発表によれば、条件が整った環境では空の状態から約30分で50%程度まで充電できるとされていますが、これは理想的な条件下での目安です。あわせて、これまでApple製品中心だったQi2に、主要なAndroid端末も正式に参加する流れが広がっています。

WPCが公開している仕様の改訂履歴から、出力や位置合わせに関わる主な版を抜き出すと次のとおりです。

版 時期 主な追加点
v1.0 2010年7月 5Wの給電
v1.1 2012年3月 異物検知の感度向上(近くの金属が熱を持つのを防ぐ)、USB充電器からの給電
v1.2 2015年10月 最大15Wの高速充電
v1.3 2021年1月 認証済み送電側の真正性確認(認証機能)
v2.0 2023年4月 Magnetic Power Profile(MPP)による磁力での固定と位置合わせ
v2.1 2024年9月 自動で位置を合わせる送電側(AAP)、磁石付きアクセサリーカバーへの対応
v2.2 2025年4月 最大25Wの電力伝送

一般に無償でダウンロードできる仕様はv2.1で、それより新しい版は会員企業向けです。

Qiの世代は「BPP/EPP」→「Qi2(MPP、15W上限)」→「Qi2.2/Qi2 25W(MPP2.0、25W上限)」の順に発展してきました。名称が似ているため、購入時は必ずどの世代に対応しているかを確認しましょう。

特徴の分解 MagSafeとQi2の関係、出力ワット数の規格上限

MagSafeとQi2は同じではない

MagSafeとQi2はしばしば混同されますが、提供元も対応範囲も異なります。MagSafeはAppleが自社のiPhone向けに展開している磁力式ワイヤレス充電の名称で、Apple製品とApple(または認証を受けたメーカー)のアクセサリを前提にした技術です。一方のQi2は、WPCが策定する業界標準規格で、Appleに限らず複数のメーカーが対応製品を出せます。Qi2のMagnetic Power ProfileはMagSafeの技術思想を土台にしていますが、Qi2対応をうたう製品がすべてMagSafe製品というわけではありません。

出力ワット数は規格ごとに上限が決まっている

ワイヤレス充電の出力は、パッド側の性能だけでなく、どの規格・プロファイルに対応しているかによって上限が変わります。おおまかにはBPPが5W前後、EPPが最大15W、Qi2のMPPも上限15W、2025年のQi2.2(Qi2 25W)で上限が25Wまで引き上げられています。充電器のパッケージに記載された最大出力の数値は、あくまでその充電器が出せる上限であり、実際の充電速度はスマートフォン本体が受け取れる出力の上限に制限されます。高出力をうたうパッドを購入しても、スマートフォン側の対応出力が低ければ速度は向上しません。個々の機種の対応出力は非公表の場合もあり、その際は製品仕様ページの記載を確認するのが確実です。

規格・方式の分類と比較

スマートフォン向けのワイヤレス充電に関わる規格や方式を整理すると、次のようになります。

規格・方式 策定・提供元 出力の目安 特徴
Qi(BPP) Wireless Power Consortium 5W前後 最も基本的な仕様。位置合わせはコイルの重なりに依存する
Qi(EPP) Wireless Power Consortium 最大15W BPPを拡張した高出力仕様。対応機種同士でのみ高出力が出る
Qi2(MPP) Wireless Power Consortium 最大15W 磁石による位置合わせ(Magnetic Power Profile)を標準規格化。2023年発表
Qi2.2/Qi2 25W(MPP2.0) Wireless Power Consortium 最大25W Qi2の出力を引き上げた拡張仕様。2025年に公開
MagSafe Apple Apple純正MagSafe充電器の場合、iPhone 16以降の対応機種は最大25W(30W以上のアダプター使用時。iPhone Airは20W、iPhone 16/16 Proは22.5W)、iPhone 15以前とiPhone 17eは最大15W Apple製品向けの磁力式充電。Qi2 MPPの土台になった技術

Qi2対応をうたう製品でも、磁石が内蔵されていない機種では磁力による位置固定の恩恵は受けられず、通常のQi充電として動作する点には注意が必要です。

充電パッドの選び方

充電パッドを選ぶ際は、次の基準で確認しておくと失敗が少なくなります。

確認項目 内容
対応規格の一致 スマートフォンと充電パッドが同じ規格(Qi・Qi2・Qi2.2など)に対応しているか
位置合わせの方式 磁力で自動的に位置が決まる方式か、コイル位置を目視で合わせる方式か
対応出力 スマートフォン側が実際に受け取れる出力に合っているか
ケース対応の厚み ケースを装着したままでも充電できる設計になっているか、磁力方式ならケース越しでも磁石が吸着するか
複数機器の同時充電 スマートフォン・イヤホン・スマートウォッチをまとめて置けるか
安全機能の有無 異物検知や温度保護などの保護機能が備わっているか
最も見落とされやすいのは対応規格の一致です。スマートフォンがQi2の磁力式位置固定に対応していなければ、Qi2対応をうたう充電パッドを購入しても磁力によるメリットは得られず、通常のQi充電として動作するだけになります。購入前に対応規格を製品仕様のページで確認しておくと安心です。

出力表示の読み方とACアダプターの組み合わせ

パッケージにある「最大○W」は、対応するスマートフォン・対応するACアダプター・付属ケーブルがそろったときに届きうる上限です。実際の目安を並べると、5W前後はBPPの基本出力で、ほとんどの機種で共通して使えますが充電はゆっくりです。7.5W〜10W程度は、メーカーごとの対応機種で使われることが多い中間の出力帯です。15W以上はEPPやQi2以降の対応機種同士で初めて出る出力です。

見落としやすいのが充電器に電気を送るACアダプター側です。ワイヤレス充電はコイル間で一部が熱として失われるため、充電器の最大出力より余裕のあるアダプターが必要になります。アダプターが別売りの製品は、説明書に書かれた推奨出力(W数)と、USB PD(Power Delivery)やQC(Quick Charge)などの対応規格を確認してから組み合わせてください。出力が足りないアダプターにつなぐと、充電器は動いても本来の速度は出ません。

AppleのMagSafe充電器を例にとると、最大25Wを出すには30W以上(15V/2.0A以上)、最大15Wの組み合わせでは20W以上のUSB-Cアダプターが求められています。12W(5V/2.4A)のアダプターでも動きますが、充電は遅くなるとされています。また、iPhoneを置く前に充電器を電源につないでおくよう案内されています。

形状の違い 置き型・スタンド型・多機能一体型

形状 向いている使い方
置き型(パッド型) 薄く場所を取らない。寝る前に置いて朝まで充電する使い方に合う
スタンド型 画面を立てたまま充電でき、通知の確認や動画を見ながらの充電がしやすい
多機能一体型 スマートフォン・イヤホン・スマートウォッチをまとめて置ける。デスクに充電器を何台も並べずに済む
車載用 振動でずれないよう固定機構を備えた専用設計。卓上用とは別のカテゴリーとして探す

コイルの数と置き位置の自由度

磁石で位置が決まらない従来型のQi充電器では、内部のコイルの数が使い勝手を左右します。コイルが1つのシングルコイル型は、決まった位置に置かないと充電が始まらないことがあります。複数のコイルを並べたマルチコイル型は、パッドのどこに置いてもいずれかのコイルが反応しやすく、暗い部屋で手探りで置くような場面でも失敗が減ります。パッドの外寸と実際に反応する範囲は一致しないため、仕様にある「充電可能エリア」の記載を確認しておくと確実です。Qi2の磁力式であれば位置は磁石で決まるので、この点を気にする必要はほぼありません。

イヤホンケース・モバイルバッテリーとの組み合わせ

多機能一体型でイヤホンもまとめて充電したい場合は、イヤホンの充電ケースがワイヤレス充電に対応しているかを先に確認します。非対応のケースはUSB-Cなどの端子からしか充電できないため、パッドに置いても充電されません。背面に重ねて使うワイヤレス式のモバイルバッテリーはケーブルが要らず、磁力式ならスマートフォンと一体にして持ち歩けます。その一方で出力は控えめな製品が多いので、急ぎの充電には有線でつなぐほうが速い場面もあります。

発熱と安全機能

ワイヤレス充電は電磁誘導によるエネルギー変換の過程で、有線充電と比べて発熱しやすい特性があります。信頼できる製品には、発熱や誤作動を防ぐ保護機能が備わっています。

安全機能 役割
異物検知機能 コイルの間に金属片などの異物が置かれた際に充電を停止する
温度保護機能 一定以上の温度に達すると出力を自動的に下げる、または停止する
過充電保護 満充電になった後は給電を自動的に止め、過剰な充電を防ぐ
金属製のパーツを含むケースやカードホルダーを装着したままだと、異物検知機能が反応して充電が始まらなかったり、異常発熱につながったりすることがあります。金属パーツのないケースに替えるか、ケースを外して充電することが推奨されます。

発熱を抑える置き方と長く使うための手入れ

ケースを付けたまま充電すると熱がこもりやすいため、本体が熱くなりやすいと感じたら、ケースを外すか薄手のものに替えるのが手軽な対策です。就寝中のように長時間置きっぱなしにする場合は、布団の上や物に囲まれた場所を避け、風通しのよい場所に設置します。真夏の車内のように周囲の温度が高い環境での充電は、温度保護が働いて充電が止まったり、バッテリーに負担がかかったりしやすいため注意が必要です。

充電器そのものの耐用年数を公表しているメーカーは多くありません。コイル部分や表面にほこりがたまると反応が悪くなることがあるので、乾いた布でときどき拭き、極端な高温の場所で使わないことが長持ちにつながります。

設置場所別の活用アイデア

ベッドサイドや玄関、デスクの上など日常的にスマートフォンを置く場所に設置しておくと、ケーブルを探す手間が減ります。車内では、走行中の振動でずれにくい固定式のホルダー一体型が安定します。複数人で共有するオフィスのデスクなどでは、対応規格が異なる端末が混在するため、BPPからQi2.2まで幅広く対応したパッドを選んでおくと安心です。

よくある質問

Qi対応と記載されていない充電器でも使えますか。

Qi規格に準拠していない独自方式の充電器は、対応するスマートフォンが限られます。汎用性を重視するなら、Qi対応と明記された製品を選ぶのが安心です。

Qi2対応スマートフォンでなくても、Qi2の充電パッドは使えますか。

多くのQi2対応充電パッドは従来のQi(BPP・EPP)にも対応しているため、通常のワイヤレス充電としては利用できます。ただし磁力による位置固定の恩恵は受けられません。

Qi2.2(Qi2 25W)対応のパッドを使えば、どのスマートフォンでも25Wで充電できますか。

できません。パッド側が25Wに対応していても、スマートフォン本体がQi2.2(MPP2.0)に対応していなければ、従来のQi2やEPPの上限までしか出力されません。

金属製のカードケースをつけたままでも充電できますか。

金属製のパーツは異物検知機能に反応して充電が停止したり、異常発熱の原因になったりすることがあります。外してから充電することが推奨されます。

ワイヤレス充電は有線充電よりバッテリーを傷めますか。

発熱しやすい特性上、高温状態が続くとバッテリー劣化を早める可能性が指摘されていますが、具体的な劣化速度についてメーカーから公式な数値は示されていません。安全機能が適切に働いていれば、過度に心配する必要はないとされています。

MagSafeとQi2は同じものですか。

同じではありません。MagSafeはAppleが自社製品向けに展開している磁力式の規格で、その技術思想を業界標準として取り込んだものがQi2のMagnetic Power Profileです。両者は関連していますが、提供元も対応範囲も異なります。

ワイヤレス充電が思ったより遅いのはなぜですか。

スマートフォンと充電器の対応出力が合っていない、ACアダプターの出力が足りない、置く位置がずれている、ケースが厚いといった原因が考えられます。ケースを外して置き直し、アダプターの出力も確認してみてください。iPhoneの場合、Appleは10W未満のワイヤレス充電器では時間がかかりやすいこと、ワイヤレス充電中にイヤホンなどの有線アクセサリーをつなぐと出力が制限されること(iPhone 16シリーズでは7.5W、上限は機種によって異なります)、カメラやゲームなど負荷の高いアプリを使っていると遅くなることを挙げています。

カードを入れた手帳型ケースのままでも充電できますか。

ICカードやクレジットカードを収納していると、カードが干渉して充電できない、または遅くなることがあります。カードの磁気やICチップに影響が出るおそれもあるため、充電中はカードを取り出すかケースを外してください。

iPhoneとAndroidで同じ充電器を使い回せますか。

どちらもQiに対応していれば、基本的に同じ充電器で充電できます。ただし磁力による位置固定や高出力の対応状況は機種ごとに違うため、両方で同じ速度・同じ使い勝手になるとは限りません。

寝ている間ずっと充電器に置いたままで大丈夫ですか。

多くの製品は満充電になると給電を止める制御を備えています。そのうえで、熱がこもりにくい場所に置いておくと安心です。

まとめ

ワイヤレス充電は、WPCが策定したQi規格(BPP・EPP)を土台に、位置合わせを磁力で補うQi2(2023年発表)、さらに出力を引き上げたQi2.2/Qi2 25W(2025年公開)へと段階的に発展してきました。MagSafeはApple独自の技術ですが、その考え方がQi2のMagnetic Power Profileに取り込まれ、複数メーカーの機種がQi2対応をうたうようになっています。充電パッドを選ぶ際は、スマートフォン側がどの世代のQiに対応しているかを最初に確かめ、組み合わせるACアダプターの出力、置き型かスタンド型かといった形状、異物検知や温度保護の有無まで合わせて確認すると、日常的に使う場所や用途に合った製品を選びやすくなります。

出典・参考情報

Wireless Power Consortium(WPC)が策定する無線給電の標準規格Qi。Qi2は磁力による位置合わせを標準機能として組み込んだ後継規格にあたります。基本出力のBaseline Power Profile(BPP)と、より高い出力に対応するExtended Power Profile(EPP)が定められています/USB-IF(USB Implementers Forum)が策定するUSB Power Delivery規格。ワイヤレス充電器に給電するACアダプター側の要件に関わります/電気用品安全法に基づくPSEマークの表示制度/実際の充電速度は端末側の対応規格、ケースの厚みや素材、周囲の温度によって変わります。本記事の数値は規格上の値および各メーカーが公表する仕様に基づく目安です/磁力を用いる方式では、磁気カードや植込み型医療機器への影響についてメーカーの注意事項を確認してください。

あわせて読みたい

-スマホ周辺機器・アクセサリー