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補聴器と集音器は何が違うのか 制度上の位置づけと購入前に確認すること

「最近、聞き返すことが増えた」という家族の様子が気になったとき、最初に迷うのが補聴器と集音器のどちらを検討すべきかという点です。通販の広告では両者が似た文脈で並び、価格差だけが目立ちます。しかし結論からいうと、この2つは制度上まったく別のものです。補聴器は薬機法に基づく管理医療機器で、集音器はそうではありません。この記事では制度上の違いを整理したうえで、国民生活センターが公表している相談事例から実際に起きているトラブルを確認し、購入前に踏むべき手順をまとめます。

この記事でわかること

補聴器と集音器の制度上の違い/公的機関に寄せられている相談の内容と、増えている購入経路/購入前に踏むべき5つの手順/クーリング・オフが使える場合と使えない場合/集音器が向いている場面

制度上の位置づけが違う

まず押さえるべきは、根拠となる法律の有無です。国民生活センターの資料には次のように記されています。一般的な補聴器は、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)第2条第6項で定められる管理医療機器であり、使用目的または効果について「身体に装着して、難聴者が音を増幅して聞くことを可能とすること」と定められています(平成17年3月25日厚生労働省告示第112号)。

一方、集音器や助聴器といった補聴器に形状が似た商品については、いずれも同法による管理医療機器ではなく、難聴者が補聴目的で使用する商品ではないと明記されています。

項目 補聴器 集音器
法律上の位置づけ 薬機法の管理医療機器 医療機器ではない一般の電化製品
使用目的の定め 難聴者が音を増幅して聞くことを可能とすること(厚生労働省告示) 法令上の定めはない
効果と安全性の管理 製造販売に承認・認証の手続きが必要 そうした手続きの対象外
販売する事業者 管理医療機器の販売等の届出が必要 特段の届出は不要
音の増幅の考え方 個人の聞こえに合わせて調整(フィッティング)する前提 周囲の音を全体的に大きくする製品が多い
価格帯の目安 片耳数万円から数十万円 数千円から数万円

管理医療機器とは、副作用または機能の障害が生じた場合に人の生命及び健康に影響を与えるおそれがあることから、適切な管理が必要なものとして厚生労働大臣が指定するものです。医療機器は高度管理医療機器、管理医療機器、一般医療機器に分類され、補聴器はその中間に位置づけられています。

価格差の理由がここにあります。補聴器の費用には、機器そのものだけでなく、購入前後の聞こえの調整(フィッティング)や定期的な清掃といったアフターケアが含まれるのが一般的です。国民生活センターも、販売側の専門性やメンテナンス体制が購入・契約の際の重要なポイントになると指摘しています。集音器が安いのは、この部分がないためだと理解しておいてください。

統計で見る補聴器と集音器の利用状況

日本補聴器工業会の集計によると、2025年の国内補聴器出荷台数は654,366台で、同会は過去最高と発表しています(2026年1月28日)。内訳は耳かけ型が421,934台、耳あな型が225,661台(うちオーダーメイド172,936台)、ポケット型が6,542台です。10年前の2015年は562,284台でした。これはメーカーの出荷台数で、販売台数や利用者数そのものではありません。

同じ日に公表された「JapanTrak 2025」は、同会がテクノエイド協会の後援で行ったアンケート調査で、代表サンプルは14,368人です。聞こえにくさを自覚している人(自己申告)は全体の11%で、そのうち補聴器を持っている人は15.6%でした。補聴器所有者の19%は、補聴器を通信販売・インターネット等で入手したと答えており、理由には入手の簡単さや価格の手ごろさが挙がっています。一方、所有者の11%は補聴器をまったく使っておらず、21%は使う時間が1日1時間未満でした。この数字は医師の診断ではなく回答者の自己申告にもとづくものです。

実際に起きているトラブル

国民生活センターは2014年2月に補聴器に関する注意喚起を行い、その後も相談が寄せられ続けていることから、2021年2月25日に改めて報道発表を行っています。相談件数はやや減少していたものの最近は増加傾向が見られ、とくに通信販売でのトラブルの割合が増えていると指摘されています。

資料が挙げる4つの問題点

問題点 内容
医師の診断がないまま購入している 眼鏡店で声をかけられ、不安をあおられて契約したが、後日耳鼻咽喉科で正常値と判定され不要と言われた事例がある
試用せず、適切な説明もないまま販売されている 試用した型と違うタイプを勧められ、購入後に我慢できない音がすると分かった事例がある
検討時間がないまま契約している 説明を聞くだけのつもりが自宅に上がり込まれた、長時間の説明で疲れて契約したという事例がある
通信販売で返品できない、連絡がつかない 通電したので返品不可と言われた、返品窓口に電話がつながらない、代金を振り込んだが商品が届かないという事例がある

同じ業者の訪問販売で、数年おきに何度も補聴器を購入していたという事例も報告されています。今回が約50万円、2年前も約50万円、その前は約30万円の補聴器でした。相談者は、売ったあとに調整をしてくれず、新たな補聴器を勧める販売方法に納得できないと訴えています。

とくに注意が必要なのが、通信販売で「誰にでも装着可能」とうたう製品です。国民生活センターの事例では、S・M・Lの3サイズに変更できるキットが付いているので全ての人に対応可能と説明されて購入したものの、実際には合わず、電池を入れて通電していたことを理由に返品を断られたケースが報告されています。耳の形も聞こえ方も人によって異なるため、試さずに合うかどうかを判断することはできません。

購入前に踏むべき5つの手順

国民生活センターが示す消費者へのアドバイスを、実行する順に並べ直しました。

順番 やること 内容
1 専門医の診断を受ける 耳鼻咽喉科で聞こえの状態を確認する。治療で改善が見込めるかも含めて判断する
2 補聴器相談医に相談する 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会が、難聴の患者の適切な補聴器利用のために補聴器相談医を委嘱している。補聴器が本当に必要かどうかの診断も役割に含まれる
3 信頼できる販売店を選ぶ テクノエイド協会が認定補聴器専門店と認定補聴器技能者の認定を行っている
4 試用して確かめる 実際の生活環境で使い、聞こえ方・装着具合・手入れのしやすさを確認する
5 家族の同席を求める 聞こえに不安がある状態では説明を聞き取りにくい。契約時は家族が同席する

1番目を飛ばすと、そもそも補聴器が必要な状態なのかが分からないまま高額な買い物をすることになります。聞こえにくさの原因が耳あかの詰まりや中耳の炎症であれば、治療で改善する場合もあります。順番を守ることが、結果的にもっとも費用対効果の高い進め方になります。

フィッティングという工程

補聴器は買って終わりではありません。日本補聴器技能者協会は、フィッティングを「補聴器を使用する人の聞こえに合わせる作業を総称するもの」と定義しています。購入時の調整に加え、使い始めてからの再調整も必要になります。最初は雑音が気になっても、段階的に調整しながら慣らしていく過程があるためです。この工程を担う体制があるかどうかが、販売店選びの基準になります。

クーリング・オフが使える場合と使えない場合

ここは誤解が多い部分です。国民生活センターの資料は、自ら出向いた店舗購入や通信販売の場合は、特定商取引法によるクーリング・オフは適用されないと明記しています。

購入の形態 クーリング・オフ 注意点
訪問販売 適用される 法定の書面を受け取った日から数えて8日以内に手続きする
自ら出向いた店舗での購入 適用されない 契約前に十分な試用と説明を受ける
通信販売 適用されない 広告に表示された返品条件(返品特約)を購入前に確認する

通信販売にはクーリング・オフはありませんが、まったく返品のルールがないわけではありません。特定商取引法第15条の3では、広告に返品特約の表示がなければ、商品の引渡しを受けた日から数えて8日以内は申込みの撤回や契約の解除ができるとされています。この場合、返送の費用は購入者の負担です。一方、広告に返品特約が表示されていれば、その特約が優先されます。「通電したら返品不可」といった条件はこの特約として書かれていることがあるため、購入後のお試し期間があるか、どんな条件なら返品できるかを、注文の前に確認してください。

集音器はどんな場面で使えるのか

集音器が無意味というわけではありません。難聴の補正を目的としない範囲であれば、使いどころはあります。

向いている場面 理由
テレビの音を手元で聞きたい 本人の聞こえの補正ではなく、音源を近づける用途
特定の場面だけ一時的に音を大きくしたい 常時装用を前提としない使い方
補聴器を検討する前に、増幅した音への慣れを試したい ただし聞こえの評価にはならない点に注意する

逆に、日常会話が聞き取りにくい状態を改善する目的で集音器を選ぶことは、制度上想定されていない使い方です。大きくする必要のない音まで一律に増幅されるため、うるさく感じて使わなくなるという結果になりやすい面もあります。

費用に関する制度

費用負担を軽くする制度が用意されている場合があります。ただし要件があるため、必ず事前に確認してください。

制度 概要
補装具費の支給 身体障害者手帳の交付を受けている場合など、障害者総合支援法に基づく補装具費支給制度の対象となることがある。申請先は市区町村の窓口。厚生労働省の制度概要では、利用者負担は原則1割で、世帯の所得に応じた負担上限月額(生活保護世帯・市町村民税非課税世帯は0円、市町村民税課税世帯は37,200円)が設けられている
医療費控除 補聴器相談医が必要と認めた場合、所定の手続きを経て医療費控除の対象となり得る。適用の可否は税務署や医師への確認が必要
自治体独自の助成 高齢者の補聴器購入に対する助成を設けている市区町村がある。要件と金額は自治体ごとに異なる

いずれも購入後に手続きしようとしても間に合わない場合があります。制度を使う可能性があるなら、購入前に窓口へ相談してください。順序を間違えると対象外になることがあります。

医療費控除と消費税で分かれる扱い

税金の扱いでも、補聴器と集音器ははっきり分かれます。国税庁は2018年4月16日付の文書で、補聴器の購入費用が医療費控除の対象になる条件を示しました。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会が認定した補聴器相談医が「補聴器適合に関する診療情報提供書(2018)」で、診療等のために直接必要だと証明している場合です。控除の対象は、一般的に支出される水準を著しく超えない部分に限られます。

同学会は、手続きの流れを次のように案内しています。

段階 学会が示す内容
受診 補聴器相談医のいる耳鼻咽喉科を受診し、補聴器が必要と証明されれば診療情報提供書(2018)が作成される
購入 提供書を持って認定補聴器専門店へ行き、提供書の写しと領収書を受け取る。認定補聴器専門店もしくは認定補聴器技能者以外から購入した場合は、医療費控除を受けられないとされている
申告 確定申告で医療費控除として申告する。税務署から求められたときに備え、提供書の写しと領収書を保管しておく

消費税では、消費税法施行令第14条の4にもとづいて身体障害者用物品を指定する告示の一覧に「補聴器」が入っています。この告示は平成3年6月の厚生省告示第130号として定められたもので、現在は令和8年3月31日の内閣府・厚生労働省告示第一号による改正後の内容になっています。補聴器は補装具の基準を定めた告示に掲げるものに限られ、この一覧に当てはまる補聴器の販売は非課税です。集音器はこの一覧に挙がっていません。JapanTrak 2025では、補聴器に消費税がかからないことを知っていた人は難聴者全体で13%(補聴器所有者では44%)にとどまりました。見積もりに消費税が上乗せされていたら、その理由を販売店に確かめてください。

紛失への備え

国民生活センターの資料では、マスクを外すときに補聴器が外れて紛失したという事例も紹介されています。50万円を超える機器で、紛失は保証の対象外だったため、片側だけをほぼ定価で買い直すことになったというものです。落下防止用のストラップや紛失補償の利用が対策として挙げられています。小型の機器を紛失しやすいという課題は、ワイヤレスイヤホンとも共通します。対策の考え方はワイヤレスイヤホンを選ぶときに見るべき基本ポイントやスマート傘・忘れ物防止タグの選び方 用途別に比較が参考になります。

よくある失敗と注意点

不安をあおる説明にその場で応じる

「早めに使い始めないと」といった説明で契約を急がされる事例が報告されています。その日のうちに決める必要はありません。

試用せずに購入する

聞こえ方も耳の形も個人差があります。実際の生活環境で試さずに判断することはできません。

通信販売でクーリング・オフができると思い込む

通信販売と自ら出向いた店舗での購入には、特定商取引法のクーリング・オフは適用されません。

本人だけで契約する

聞こえに不安がある状態では説明を十分に聞き取れないことがあります。家族の同席を求めてください。

購入後に調整を受けない

フィッティングは購入時だけの作業ではありません。合わないまま使わなくなるのは、調整の機会を逃していることが原因の場合があります。

よくある質問

集音器で代用できませんか

難聴の補正を目的とするなら適していません。国民生活センターの資料は、集音器や助聴器は管理医療機器ではなく、難聴者が補聴目的で使用する商品ではないと明記しています。テレビの音を手元で聞くといった、聞こえの補正を目的としない用途であれば使えます。

まず何から始めればよいですか

耳鼻咽喉科の受診です。聞こえにくさの原因が治療で改善するものかどうかを確認する必要があります。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は補聴器相談医を委嘱しており、名簿が公開されています。

販売店はどう選べばよいですか

テクノエイド協会が認定補聴器専門店と認定補聴器技能者の認定を行っており、各地の一覧が公開されています。購入前後の調整やメンテナンスを継続して受けられる体制があるかどうかを基準にしてください。

片耳と両耳のどちらを選ぶべきですか

聞こえの状態によって判断が変わるため、診断とフィッティングの過程で相談すべき事項です。価格だけで片耳を選ぶと、音の方向が分かりにくいといった課題が残る場合があります。

通信販売で買ってしまい、合いませんでした

まず広告や注文画面に表示された返品条件を確認してください。返品特約の表示がなかった場合は、商品が届いた日から数えて8日以内なら申込みの撤回や契約の解除ができます(返送費用は自己負担)。連絡がつかない、返品に応じてもらえないといった場合は、消費者ホットライン188に相談できます。最寄りの消費生活センター等につながります。

訪問販売で契約してしまいました

訪問販売には特定商取引法のクーリング・オフが適用されます。法定の書面を受け取った日から数えて8日以内であれば手続きが可能です。書面が交付されていない場合の扱いも含め、消費生活センターに相談してください。

家族が使いたがりません

音がうるさい、面倒だという理由で使われなくなる例は珍しくありません。調整が合っていない可能性があるため、販売店で再度のフィッティングを受けることを検討してください。本人が納得しないまま高額な機器を購入しても、使われなければ意味がありません。

聞こえにくさを放置するとどうなりますか

医学的な影響については医師の説明に従ってください。広告で見られる断定的な表現をそのまま受け取らず、専門医の診断に基づいて判断することが大切です。国民生活センターの事例では、不安をあおる説明で契約に至ったケースが報告されています。

制度上の位置づけと広告表現を分けて読むという点では、電動歯ブラシの選び方 手磨きとの差を示した研究データから考えるでも同じ構図を扱っています。

同じ構図はウェアラブル機器にもあります。詳しくはウェアラブル端末の計測値はどこまで信用できるか 医療機器との境界を制度から読むを参照してください。

まとめ

補聴器と集音器は、見た目が似ていても制度上はまったく別のものです。補聴器は薬機法に基づく管理医療機器で、使用目的が厚生労働省の告示で定められています。集音器はその対象ではなく、難聴者が補聴目的で使用する商品ではないと国民生活センターが明記しています。まず耳鼻咽喉科を受診し、補聴器相談医の診断を受け、認定を受けた販売店で試用してから購入する。この順序を守ることが、高額な失敗を避けるための基本になります。自ら出向いた店舗購入と通信販売にはクーリング・オフが適用されない点、通信販売では広告に表示された返品特約の有無で返品の扱いが変わる点も、契約の前に押さえておいてください。トラブルになったときの相談先は消費者ホットライン188です。

出典

独立行政法人国民生活センター「補聴器トラブルを防ぎましょう!‐買ったが合わず返品もできない、医師に不要と言われた...‐」(令和3年2月25日 報道発表資料)/医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)第2条第6項および平成17年3月25日厚生労働省告示第112号/一般社団法人日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会の補聴器相談医制度、「補聴器購入者が医療費控除を受けるために」/公益財団法人テクノエイド協会の認定補聴器専門店・認定補聴器技能者の認定/特定非営利活動法人日本補聴器技能者協会によるフィッティングの定義/特定商取引法(第9条のクーリング・オフ、第15条の3の通信販売における契約の解除等)/障害者総合支援法に基づく補装具費支給制度(厚生労働省「補装具費支給制度の概要」)/日本補聴器工業会「JapanTrak2025および国内の補聴器出荷台数(2025年)」(2026年1月28日)/国税庁「補聴器の購入費用に係る医療費控除の取扱いについて」(平成30年4月16日)/消費税法施行令第14条の4の規定に基づき内閣総理大臣及び厚生労働大臣が指定する身体障害者用物品及びその修理(平成3年6月厚生省告示第130号、令和8年3月31日内閣府・厚生労働省告示第一号による改正後の全文)

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