スマホの仕様表でよく見かける「IP68」のような表記は防水・防塵性能を示す規格ですが、数字の意味を正しく理解している人は意外と多くありません。結論から言うと、IP等級は「規定された試験条件下でどこまで耐えられるか」を示す指標であり、日常のあらゆる水濡れシーンを保証するものではありません。この記事ではIP等級の読み方や規格としての成り立ちから、防水と防塵それぞれの等級の意味、よくある誤解、実際に注意すべき使用シーンまでを整理します。
IP等級とは何か(基本の定義)
IP等級とは、電気機器の外郭(筐体)が固形物や水の侵入に対してどの程度保護されているかを示す等級のことで、「IP」に続く2桁の数字で構成されます。1桁目が防塵性能(固形物に対する保護等級)、2桁目が防水性能(水の浸入に対する保護等級)を表しており、数字が大きいほど保護の程度が高いことを意味します。スマホでよく見る「IP68」であれば、防塵等級が最高ランクの6、防水等級が最高ランクの8であることを示しています。
ここで注意したいのは、等級はあくまで試験室で行われた特定の条件をクリアしたことを示すものであり、実使用環境そのものを再現した結果ではないという点です。特に防水等級の8は、試験の水深や時間をメーカー側が独自に規定できる仕組みになっているため、同じIP68という表記でも製品によって公式に耐えられるとされる水深や時間が異なる場合があります。
規格の背景丨IEC 60529とJIS C 0920
IP等級はスマホ専用に作られた規格ではありません。国際電気標準会議(IEC)が定めた国際規格「IEC 60529」で規定されている分類方法で、正式名称は「外郭による保護等級(IPコード)」です。IEC 60529はもともと配電盤やモーター、産業用制御機器など電気機器全般の防塵・防水性能を分類するために策定されたもので、身近な家電やスマートフォン、ワイヤレスイヤホンなどの民生機器に等級表示が広く使われるようになったのは、規格自体の歴史から見ると比較的近年のことです。
日本国内ではIEC 60529に対応する日本産業規格として「JIS C 0920」が制定されており、国内メーカーが仕様表に記載するIP等級も基本的にはこの規格に準拠しています。IEC規格・JIS規格とも複数回の改訂を経ており、防水等級の上位区分(8や9K)は比較的新しい改訂で追加・整理された経緯があります。規格の詳細な条項番号や最新の改訂年は発行元の公式資料で確認するのが確実です。
IEC 60529の現行版
IECの公式ストアで2026年9月時点に販売されているIEC 60529は、1989年の第2版に1999年の追補1と2013年の追補2を統合したEdition 2.2で、発行日は2013年8月29日です。対象は定格電圧72.5kV以下の電気機器とされていて、スマホ専用の規格ではないことがここからも分かります。規格の本文は有償で販売されており、試験条件の細部を一般の人が原文で確かめるのは簡単ではありません。スマホの防水性能を知るには、次に挙げるメーカーの公表条件が実際の手がかりになります。
防塵等級の分解(1桁目)
1桁目の防塵等級は、固形物や粉塵が機器内部に侵入するのをどの程度防げるかを段階的に示したものです。
| 等級 | 保護の内容 |
|---|---|
| IP0X | 特に保護されていない |
| IP1X〜IP4X | 指や工具、比較的大きな固形物の侵入をある程度防ぐ段階的な区分 |
| IP5X | 粉塵が内部に侵入することはあっても、機器の動作に支障が出ない程度に抑えられる |
| IP6X | 粉塵が内部にまったく侵入しない、最も高い防塵等級 |
スマホの多くはIP6Xを取得していますが、防塵性能への関心は防水性能に比べて低くなりがちです。しかし充電端子やスピーカー開口部に細かい砂やほこりが入り込むと接触不良や音質劣化につながるため、屋外での使用機会が多い人は見落とさないほうがよい項目です。
防水等級の分解(2桁目)
2桁目の防水等級は、水がどのような形で当たっても内部への浸水を防げるかを段階的に示したものです。下の表の3から8はJIS C 0920:2003の表3と14.2.7の試験条件に合わせて書いています(2026年10月4日確認)。
| 等級 | 保護の内容 |
|---|---|
| IPX0 | 特に保護されていない |
| IPX1・IPX2 | 垂直に近い方向から落ちる水滴に耐える |
| IPX3 | 鉛直から両側に60度までの角度で噴霧した水(散水)に耐える |
| IPX4 | あらゆる方向からの水の飛まつに耐える |
| IPX5 | あらゆる方向からのノズルによる噴流水に耐える |
| IPX6 | あらゆる方向からのノズルによる強力なジェット噴流水(暴噴流)に耐える |
| IPX7 | 規定の圧力と時間で一時的に水中に沈めても、有害な量の水が入らない。試験は高さ850mm未満の機器なら最下端を水面から1mの位置に沈め、30分間行う |
| IPX8 | 関係者間で取り決めた、IPX7より厳しい条件で継続的に沈めても有害な量の水が入らない。具体的な水深と時間はメーカーが示す |
| IPX9(IPX9K) | 近距離・高温・高圧の噴流水(洗浄機による噴射などを想定)に耐える。主に産業用機器向けの区分だが、一部のアウトドア機器やスマホで採用例がある |
ここでIPX8はIPX7の上位互換ではあるが、条件そのものがメーカー任せである点が重要です。IP68という同じ表記でも、公式資料に記載された水深・時間を確認しない限り、製品ごとの実力差は分かりません。
もう一つ見落とされやすいのが、7と8は「水に沈めたとき」の等級で、5や6の「噴流」とは別の試験だという点です。JIS C 0920(IEC 60529の翻訳規格)の本文には、第二特性数字が6以下の表示はそれより下の等級すべてに適合することを表す一方、7又は8だけが指定されている外郭は噴流(5又は6)にさらすことには適さないと考えられる、と書かれています。噴流にも潜水にも耐える機器は「IPX5/IPX7」「IP66/IP68」のように二つ並べて表示されます。スマホの仕様表に「IP68」とだけあれば、シャワーを勢いよく当てるような使い方はその等級の想定の外にある、と読んでおくのが安全です。また規格の試験は真水で行われ、高圧や溶剤を使って洗う場合は実用上の保護が不十分なことがあるとも書かれています。(出典 JIS C 0920:2003 表3および6章の本文、2026年10月4日確認)

メーカーが公表する「IP68」の条件を並べてみる
各社の公式ページを並べると、同じIP68でも条件にかなりの幅があります。Appleのサポートページ(2026年3月17日公開)では、iPhone 12から17シリーズまでが「最大水深6mで最長30分間」、iPhone 11 Proは4mで30分間です。iPhone 7〜XRと第2・第3世代のSEはIP67で、1mで30分間とされています。Samsungのサポートページ(Gulf地域版、2026年6月22日更新)は、Galaxyを1.5m(IPX8)または1m(IPX7)で30分としています。ソニーのXperia 1 IIのヘルプガイドには、条件がもう一段細かく書かれていました。IPX8は常温の水道水で、静水の水深1.5mに約30分沈めること。IPX5は内径6.3mmのノズルで約3mの距離から毎分12.5Lを最低3分当てること。IP6Xは直径75μm以下の粉塵の中で8時間かくはんすることです。Google Pixel 10の仕様ページはIEC 60529に基づくIP68と書くだけで、水深と時間は公開情報では確認できませんでした。ここに挙げた数字はどれもメーカー公表の試験条件で、実際の使用環境で測った値ではありません。各社とも、耐水性は使ううちに低下するとし、水濡れや落下による損傷を保証の対象外としています。
よくある誤解
IP等級については、次のような誤解が広まりやすい傾向があります。
- 「防水」と「生活防水」は同じ意味ではない ー 「生活防水」はメーカーが分かりやすさのために使う通称であり、IP規格上の正式な区分名ではありません。実際にどのIPX等級に相当するかは製品ごとの仕様表で確認する必要があります。
- IP68=水中で自由に写真が撮れる、という意味ではない ー IP68はあくまで水没に対する耐性を示す等級であり、水中でのタッチパネル操作性やカメラの水中撮影可否を保証する規格ではありません。水中でも快適に撮影できるかどうかは、公式に案内されている使用条件やタッチパネルの水中反応性能とは別の話です。
- IP68対応=永久に同じ性能が続く、という意味ではない ー IP等級は新品時点での試験結果を示すものです。パッキンの経年劣化や落下による筐体の変形が生じれば、購入時と同じ防水性能を維持できているとは限りません。
- 数字が高い=あらゆる液体に耐える、という意味ではない ー 多くの試験は真水を基準に行われており、海水・温泉・洗剤や石鹸を含む水・アルコールなどに対する耐性は同じ等級でも保証されない場合があります。
防水性能を保つための選び方・実践的なコツ
購入時や日常使用で意識しておきたいポイントを整理します。
- アウトドアや水辺での使用機会が多いなら、防水等級だけでなく防塵等級6(IP6X)を満たしているかも確認する
- 公式サイトやカタログに記載された防水性能の水深・時間の具体的な数値を確認する(数値が非公表の場合は等級のみの参考情報として扱う)
- 海やプールで使用した後は真水で本体をすすいでから乾かすと、塩分や塩素成分による劣化を抑えやすい
- 充電端子(コネクタ部分)が濡れたまま充電しない。ショートや故障の原因になることがある
- 本体を落として傷や変形が生じた場合は、パッキンの密閉性が損なわれていないか注意する
- 水中撮影や本格的なマリンレジャーで使いたい場合は、本体防水に加えて防水ケースの併用も選択肢に入れる
防水を実現する内部構造の仕組み
スマホ本体の防水性能は、外装を頑丈にするだけでなく、隙間という隙間にゴム製のパッキンやシール材を配置することで実現されています。充電端子やSIMカードトレイ、スピーカー・マイクの開口部など、外部と内部がつながる箇所すべてに対策が必要になるため、防水性能を高めるほど内部設計の自由度が制限され、修理時の分解難易度も上がる傾向があります。近年はイヤホンジャックを廃止したスマホが増えていますが、接続端子の数を減らすことで防水性能を確保しやすくするという設計上の理由が背景にあるとされています。
防水性能とメーカー保証の関係
防水性能を備えたスマホであっても、水濡れによる故障はメーカー保証の対象外とされていることが一般的です。これはIP等級があくまで規定された試験環境での結果であり、実際の使用環境での水濡れすべてを保証するものではないためです。水濡れによる故障は、通常の保証とは別の有償修理や、加入している保証サービスの補償範囲によって対応が分かれます。防水性能があるからと過信せず、購入時に保証内容や水濡れ時の対応についても確認しておくと安心です。
防塵性能が重要になる場面
防水性能ばかりに注目が集まりがちですが、砂浜や工事現場、屋外イベントなど砂ぼこりの多い環境で使う機会がある人は、防塵性能(IP等級の1桁目)も確認しておきたいポイントです。防塵性能が低い機種は、充電端子やスピーカー部分に細かい砂やほこりが入り込み、接触不良や音質の劣化につながることがあります。アウトドア用途を想定するなら、防水性能と合わせて防塵等級6を満たしているかを確認するとよいでしょう。
防水ケースは併用したほうがよいか
本体がIP68相当の防水性能を備えていても、水辺のレジャーや水中撮影を積極的に楽しみたい場合は、追加で防水ケースを併用するという選択肢もあります。本体の防水性能は経年劣化や落下による損傷で低下する可能性があるため、防水ケースを使うことでその低下分を補い、より安心して水回りで使えるようになります。ただし防水ケース越しではタッチパネルの反応が悪くなる、カメラ画質がケースの素材によってわずかに低下するといったデメリットもあるため、日常使いでは本体の防水性能のみで十分という判断も選択肢の一つです。
ワイヤレスイヤホンや周辺機器の防水表示
スマホ以外にも、ワイヤレスイヤホンやスマートウォッチなど汗や雨にさらされやすい製品にも同様のIP等級表示が使われています。運動時の使用を想定する製品では「IPX4」のようにXで防塵性能の試験を省略した表記もよく見られ、この場合は防水性能のみが評価されていることを意味します。用途に応じてどちらの等級が重要かを見極めて確認することが大切です。
よくある質問
IP68のスマホなら水中で写真を撮っても大丈夫ですか?
メーカーが公表する条件(水深・時間)の範囲内であれば問題ないとされていますが、水中でのタッチパネル操作は正常に反応しないことが多く、撮影自体が難しい場合があります。
防水スマホでも水没して壊れることはありますか?
経年劣化や本体の傷、想定を超えた水深・時間での使用によって浸水し故障するケースはあります。防水性能は絶対的な保証ではないと理解しておくことが大切です。
IPX4とIP68、どちらが防水性能が高いですか?
IP68のほうが数字上の防水等級(8)がIPX4の防水等級(4)より高く、より厳しい条件に耐える設計です。ただしIPX4は防塵試験を省略している表記のため、単純比較には注意が必要です。
濡れたスマホはどう対処すればよいですか?
まず電源を切らずに水分をできるだけ拭き取り、充電端子に水分が残っていないか確認します。充電はコネクタが完全に乾いてから行うのが安全です。
防水スマホは水泳中に使えますか?
一般的なIP68表記は水泳中の水圧や動きを想定した試験ではないため、推奨されていないことが多いです。防水性能の等級だけでなく、メーカーが公表する使用可否のガイドラインも確認してください。
「生活防水」と表記された製品はIP等級で言うとどのくらいですか?
明確な対応表は公式には定められていませんが、一般にIPX2〜IPX4程度の軽い水濡れへの耐性を指す通称として使われることが多いとされています。正確な等級は各製品の仕様表で確認するのが確実です。
IP等級の試験は誰が行っていますか?
IEC 60529やJIS C 0920に基づく試験は、各メーカーが自社または第三者の試験機関で実施し、その結果を仕様表に反映する形が一般的です。第三者認証の有無は製品ごとに異なります。
防水性能は時間が経つと落ちますか?
パッキンなどのゴム部材は経年劣化しやすく、購入時と同じ防水性能がいつまでも保たれるとは限りません。長期間使用している場合は特に過信しないことが推奨されます。
防水性能は、端末を守る手段のひとつにすぎません。落下や画面の破損への備えは別に必要です。割れたときの判断はスマホの画面が割れたら修理か買い替えか、判断基準、日常の扱いで端末の状態を保つ考え方はスマホのバッテリー劣化対策 公表情報で裏付けられることだけを整理するで扱っています。
まとめ
IP等級はIEC 60529(国内ではJIS C 0920)という国際規格に基づき、防塵・防水性能を数字で示す仕組みです。1桁目が防塵、2桁目が防水を表し、数字が大きいほど保護等級が高くなりますが、いずれも規定された試験条件下での結果であり、実際の使用環境や経年劣化まで保証するものではありません。「生活防水」という通称や「防水=水中撮影可」といった思い込みに惑わされず、等級の意味を正しく理解した上で過信せず丁寧に扱うことが、長く安心してスマホを使い続けるポイントになります。
出典・参考情報
国際電気標準会議(IEC)が定める国際規格IEC 60529「外郭による保護等級(IPコード)」。もともとは配電盤やモーター、産業用制御機器など電気機器全般の防塵・防水性能を分類するために策定されたものです/日本国内で対応する日本産業規格JIS C 0920。国内メーカーが仕様表に記載するIP等級も基本的にこの規格に準拠しています/IEC規格・JIS規格とも複数回の改訂を経ており、防水等級の上位区分は比較的新しい改訂で追加・整理された経緯があります/等級試験は各メーカーが自社または第三者の試験機関で実施し、結果を仕様表に反映する形が一般的です。試験は規定された条件下で行われるものであり、実際の使用環境や経年劣化後の性能を保証するものではありません。JIS C 0920:2003の本文では、第二特性数字7又は8だけの外郭は噴流にさらすことに適さないと考えられること、二重表示の方法、試験を真水で行うことが定められています(2026年10月4日確認)。IEC 60529の現行版はIEC(国際電気標準会議)「IEC 60529:1989+AMD1:1999+AMD2:2013 CSV」(Edition 2.2、2013年8月29日)、メーカー各社の公表条件はApple「iPhoneの防沫性能、耐水性能、防塵性能について」(2026年3月17日)、Samsung「How water resistant is a Galaxy phone?」(2026年6月22日更新)、ソニー Xperia 1 II ヘルプガイド「防水/防塵性能」、Google Store「Pixel 10 Specs」に基づきます。
